糖尿病や高血圧から眼底出血などを引き起こす事は有名ですが、他科の意外な疾患が原因となり、眼科的な病気を引き起こす事があります。
今回からは数回に分けて「一般的に眼科とは無関係と思われがちな病気が、実は眼科的な病気の原因になっている場合がある」という事に関してお話しさせて頂きたいと思っております。
今回の皮膚科的疾患をはじめとし、今後は脳神経外科・内科(膠原病、内分泌、呼吸器、血液、腫瘍 等)や耳鼻科的疾患等と、眼疾患の関連について掲載させて頂く予定です。
★1回目は皮膚科的疾患の「アトピー性皮膚炎の方に多い眼合併症」です。★
「アトピー性皮膚炎:以下アトピー」は皮膚科的疾患ですが「眼科的合併症が多い事」が意外に知られていない疾患です。その合併症には軽症のモノから、なんと、失明に及ぶ事もある重症眼疾患もあります。
※注)下記に記載する疾患は決してアトピーの方だけに発症する疾患ではございません。またアトピーの方が必ず罹患する疾患でもございません。
※「白内障」や「アレルギー性結膜炎」という有名な病名から、普段聞きなれない「円錐角膜」「春季カタル」「カポジ水痘様発疹症」等や、意外とも思われます「網膜剥離」まで、本当に多種・多様な眼合併症がアトピー性皮膚炎に多い事を知って頂ければ幸いです。※
今回、眼の健康を守る意味で重要な事は「眼を擦る事=眼の外傷」であり、下記の病気を誘発したり、全ての症状を悪化させます!
×こすっちゃダメ!×
★症状①:視力低下
1)白内障:
A)アトピー性白内障
アトピーの方は10歳代の思春期にも発症します。
原因には諸説ありますが、眼を強くこする事(外傷説)も原因と言われておりますので、眼をこすり過ぎないように注意しましょう。
B)ステロイド白内障
アトピーに対するステロイドの長期内服等が原因となります。10代でも発症する事があります。
またアトピー以外でもステロイド長期内服中の方は「ステロイド高眼圧症・緑内障」も発症する可能性もありますので、症状が無くても定期的に「眼圧・眼底検査は必要」であると考えます。
2)円錐角膜:
角膜(黒目)の中央部が円錐状に突出する進行性の角膜疾患です。
眼鏡で充分に矯正出来なき程の乱視、ハードコンタクトを用いても充分に矯正視力が得られない場合には、「円錐角膜」が無いか否かを見極める必要があります。
また円錐角膜は進行性の乱視ですので、眼鏡やコンタクトレンズを作成しても短期間で視力低下を訴える事が多い傾向にあります。治療は「適切なハードコンタクトレンズの装着」になります。放置すると角膜移植が必要になる場合もあります。
★症状②:マブタや眼が痒い・痛い・荒れている。
1)アレルギー性結膜炎
アトピーの方には高率に合併します。これは比較的有名な合併症です。
慢性疾患ですので、適切な点眼治療で目をこすらない様にする事で、白内障や(下記に記載する)網膜剥離の発症予防にもなります。
2)春季カタル(注意疾患)
アレルギー性結膜炎の重症型です。瞼の裏に「巨大乳頭」と呼ばれるブツブツが形成されます。まばたきをする度に、この巨大乳頭が角膜をこすってしまう事により、角膜を傷つけてしまいます(角膜びらん・角膜炎)。
治療は抗アレルギー作用のある点眼及びステロイド点眼の処方を行います。また角膜保護や2次感染予防のために抗生剤点眼や眼軟膏を使用する事もあります。
また「ステロイド点眼が有効でない」「ステロイド剤が合わない」「ステロイド剤の使用が長期になっている」方は眼圧上昇や角膜の2次感染等の副作用も危惧されます為、免疫抑制剤点眼(シクロスポリン点眼 等)を使用いたします。主治医とよく相談しましょう。更に薬で改善を診ない重症例では「巨大乳頭」を取り除く手術が必要になる場合もあります。「春季カタル」という病名ですが、通年性の疾患です。
3)アレルギー性眼瞼炎
瞼のアレルギー性の炎症です。病変が広範囲でなければ局所療法として程度に応じて非ステロイド系の軟膏や、ステロイド軟膏を処方致します。
病変が広範囲に及ぶ場合には抗アレルギー剤の内服も併用します。
また、ステロイド眼軟膏の処方には下記に記載する「カポジ水痘様発疹症」や「帯状疱疹初期」との鑑別が重要になります。
※特に上述1)~3)までの疾患に関しましては、どうしてもステロイド点眼・軟膏・内服の処方が必要となる場合がございます。その為、当院では処方薬がステロイドの点眼・内服のいかんに拘わらず「糖尿病などの既往歴」「風邪に罹患していないか」等、ステロイド剤の投与の可否に関して重要となる問診を大事にしております。
眼科的にも「角膜に問題が無い事」「緑内障が無い事」「高眼圧」でない事も検査・診察にて確認をしています。
処方後も、投与が比較的長期に及ぶ場合には定期的に「顕微鏡検査」「眼圧検査」「眼底検査」等でステロイドの副作用発現のチェックをしております。その点はご安心頂ければ幸いです。
4)カポジ水痘様発疹症
原因は「単純ヘルペス」というウイルス感染です。アトピーの方は皮膚自体の免疫力が低下していますので、一度治っても何度も繰り返す事が多い傾向にあります。特に初期は通常の「アレルギー性眼瞼炎との鑑別」が重要になり、安易にステロイド眼軟膏を処方すると返って悪化する事になりますので、問診上「アトピーが無いか」「最近、風邪をひいてないか」「疲れていないか」等を聞く事も重要になります。
5)帯状疱疹
「眼にも帯状疱疹が出来るのか?」と良く質問を頂きますが、三叉神経という「痛みを感じる神経」の通っている場所にはどこにでも発症する可能性があります。
健常人でも発症しますが、特に免疫不全の方や疲労の蓄積された方に発症致します。同様の理由で、慢性的に「皮膚の免疫低下状態」であるアトピーの方に多い傾向があります。
原因は「帯状疱疹ウイルス」であり、初感染は水疱瘡の形で発症し、体内に残っているウイルスが免疫低下した際にいろいろな箇所に再発をします。
『※4)5)に関しましては程度に応じて「抗ヘルペス薬の軟膏」「抗ヘルペス薬の内服」等で治療いたします。但し、頭痛などの髄膜刺激症状がある方、2つ以上の神経支配領域に発症した方は、入院・安静・点滴療法も必要になる事もあります。
特にヘルペスの眼合併症には角膜炎・結膜炎・虹彩炎等、多種多彩です。
稀ではありますが眼球運動障害(眼の動きが悪くなって二つに見える)、視神経炎(突然の視力低下)を引き起こす事もあるので、治癒した様でも眼の症状には気を付けましょう!※』
6)角膜感染症やドライアイ
眼周囲の単純ヘルぺスや帯状疱疹の発症が原因となり、ヘルペス性角膜炎を併発する事があります。眼瞼に発疹は無くても、いきなりヘルペス性角膜炎を発症する場合もあります。
またアレルギー性結膜炎や眼瞼炎、春季カタルによる慢性的な角膜の擦過(自分で目をこすったり、巨大乳頭によって角膜がこすられる事)による傷に細菌が感染しますと「角膜潰瘍」を発症する場合もあります。アトピーの方が眼の違和感や異物感を感じました際には速やかな眼科受診をお奨めいたします。
※近年はドライアイとアトピーの関連も示唆されております※
★症状③:飛蚊症・光視症・視野欠損
※網膜裂孔・網膜剥離
アトピーの眼科的合併症としてはあまり知られていないのが現状です。
アトピーの方は思春期でも網膜剥離を発症しやすい傾向にあります。
飛蚊症や光視症等の自覚症状の無い場合もありますので、アトピーの方には年一回の散瞳剤を用いての詳細な眼底検査をお奨めしております。
アトピーの方に網膜剥離が多い原因としても諸説ありますが、白内障と同様に「眼を長期に渡ってこする事」という外傷説が有力と私自身は考えております。
弱い外傷でも長期続く事によって、目の中にある「硝子体の融解・減少が年齢より早くおこる」事が原因ではないかと思っております。網膜剥離の発症様式の詳細に関しましては「眼疾患と症状:第3回」の項目をご参照ください。
※「眼を強くこする事=眼球鈍的外傷」とお考えください!※
ご不明な点は、主治医にお尋ねください。
文責:藤田